急進期とは?
風邪を思い浮かべてみましょう。
風邪を引いたかな(ひきはじめ)→発熱→医者へ行こう→診断がされる→薬をもらう→服薬→回復
という順序で服薬を起点に回復に入っていきます。
これがうつ、あるいは精神科の病気の場合、服薬をあるいは診断を受けた時点で症状が悪化する事が多いようです。これが急進機です。私の経験、あるいは体感として診断を受けた時点で一種の「安心」となんで?という「不安」が綯い交ぜになって一気に気持ちが落ち込んでいきました。更に薬を服用する事で副作用も様々な事、例えば平衡感覚の落ち込みや寝落ちなどの睡魔に見舞われてただでさえ下降していた集中力が更に角度をつけて落ちて行きます。これがきっかけになってダルさや外出への躊躇と言った形で運動量も落ち、診断前から起きていた食欲不振も相まって一気に体力も落ちていきます。
数字で示せば、iPhoneのアプリで記録していた平均の徒歩速度が5.5km/hから1km/hに落ちています。
この時期、医師から午前中の散歩を勧められる人も多いでしょうが、普段なら10分程度、散歩にもならない距離にかかる時間が30分から1時間掛かり、疲労感も出ますし予め道の端に寄って歩かないと後ろから来る人に舌打ちされるような事にもなります。気の弱っている時期ですから、このような状況が辛くて散歩もままならない人も出てきてしまうかもしれませんね。
まずは寝よう
この時期、いや診察前から不眠や睡眠不足に陥っていた人が少なくないと思っています。私の場合、仕事を忙しくしていた頃は概ね一日3時間程度眠れれば良い方でした。時には午前3時頃に悪夢で目が覚め、そこから仕事の事を考えてしまい朝日が昇る頃にようやく寝付けて、6時に起床。実質、寝ていないような状況が続きました。それでも「俺ってショートスリーパーだからな」で自分を納得させて仕事を続けていましたが、たまに休める時には14時間ぐらい寝続けてしまうこともありましたから、本当のショートスリーパーという訳ではなかったのでしょうね。そして、先述の通り夢見が悪いこともあって眠ることに恐怖もありましたし、そこから目覚めた時に仕事の事を考えると言う循環から眠ること自体に恐怖感と罪悪感が付き纏っていたのです。これがうつを加速させていた要因だったのかもしれません。
初診を終えて処方された薬の中には向精神薬の他に睡眠促進薬も含まれていました。医師からは「他の薬にも睡眠をサポートする成分が入っているから、眠くなったら無理に抗わないこと」と言う一言が添えられていました。実際、薬を飲みだすと散歩から帰宅 すればグッタリ。シャワーを浴びる気力もなくベッドへ直行するような事もありました。でも、それで良いんです。寝ちゃいます。
散歩自体も「苦行」「修行」と思っていると億劫になりますが、これも出来るだけ「行きたいところ」を見つけて折り返し点にしておきましょう。近くても良いので「行きたいところ」を探しておきます。そして出来れば2-3コース用意しておけば、体調に拠って長い距離を歩いてみたり、飽きた時に使うコースなども出来るので良いと思います。ただ健康な頃なら「近すぎる」と思うような距離でも急進期なら充分な距離になっていますから、先程も書いたように苦行になるような組み立ては避けましょう。
これでも薬の作用と運動による疲労感が帰宅後の自分に睡魔となって襲ってきます。特に用件がなければ睡魔に抗うことはしないようにしましょう。
もう一つは夜ですね。特にショートスリーパーだと思っていた人は夜更かしが恒常化していたりします。これは改めた方が良いでしょう。出来るだけ決めた時間に寝て、決めた時間に起きる。そして顔でも洗って散歩に出る。と言うルーティーンにしてしまいましょう。そして、散歩中には出来るだけ「楽しかったこと」を覚えておくと良いのではないでしょうか。
私の場合、神社仏閣参りが趣味でしたから、3コースを決めた時には、それぞれに神社仏閣を織り込んでおいて、そこにお参りすること自体が楽しみでしたし、ご住職や宮司さんの朝のお掃除の時間にご挨拶することが「楽しかったこと」になるようにしていました。それに散歩を楽しむ犬と会うことや見知らぬ人に「おはようございます」と声を掛けられる事も「楽しかったこと」になりました。
引きこもらず、無理にでも食べる
私にとって幸いだったのは「趣味」があった事です。先程も書いた神社仏閣をお参りすることが趣味であり、これを記録するサイトを作っていくことも「趣味」でした。サイト構築は当たり前ですが家でも出来ることです。が、何故か「引きこもりにはならないぞ」と言う気持ちが強くありました。時速1kmでヨロヨロと歩く姿は見っともないでしょうし、散歩の後に眠っても、まだ寝たらないのか、どこにいてもボケっと過ごすことが多いのですが、兎に角、日中時間帯は家から出ることを心がけていました。
ほぼ行き先はファミレス中心、そしてセルフのカフェです。幸い、頑張れば徒歩圏となる範囲で数件のファミレスがあったのと、最近では当たり前に電源が使えるので日長一日を過ごすことも少なくありませんでした。そうなると、当然、ランチタイムがやってきます。普段なら「今日は何にしようかなぁ?」「昨日はハンバーグだったから別のものにしようか」と考えるものです。が、この時期、いや今でも続いているのですが基本は「一択」。ファミレスでは「ピザとドリンクバー」で決まりです。選ぶのが面倒くさい、食べる手間が掛からない。だからだったのでしょうね。そして不思議と飽きないのです。普通なら毎日ピザを食べるなら、たまにはハンバーグなどにも手を出すのでしょうが、ピザ一度以外に思いつかなかったのです。
なにせファミレスに行く理由は家に引きこもらない事、そしてサイトに手を付ける事でしたから、お店には申し訳ないものの食事は副次的なものでしたから…。時には(いや、かなり多くの場合)、サイトに手を付けようにも気力がなくYoutubeで一日を過ごすことも少なくなかったのですが、それでも「外に出ている自分」が定着してくると少し自信がついてくる気がしました。
散歩とファミレス、この一日2回の外出は急性期に気持ちを和らげる効果があったように思います。
煩悩はなく、自分を責めることもなく
私の場合、先程書いたように食欲を始め様々な煩悩がなくなっていました。眠ることは「薬」の作用であって、たまに睡眠導入剤を飲まずにいれば「定時」になっても眠れませんし、眠りたくもありません。好きだったスポーツ番組を見ることもなくなり、ただただ時間を過ごす事が仕事になっていました。良く「無言の行」なんて聞いたりしますが、話すことすら億劫で無言でいられるなら、その方が楽なのです。だから散歩で「楽しかったこと」を見つけようとしていたのですね。こんな状況でしばしば起こる感情が自分に対する攻撃性です。「俺って弱いヤツだよな」「あの仕事、もっと上手くできただろ」とか、過去に起きたことも含めて自分に対して責め苦を負わせるのです。先程書いたように「ボケっと」している時間でも、頭の中では「なんでサイトに投稿できないんだよ」「なんで写真を探すのを面倒くさがるんだよ」と常に責め続けているのです。
診察を受けているときでも医師から「今、以前の自分と比較して何点あげられる?」と聞かれると「10点満点で1点」とかと答えるしかありませんでした。所謂、自己肯定感が皆無に近い状態です。0点ではないのは散歩をし、引きこもらないと言う部分だけです。この状況、最悪なんですよね。自分で自分を追い込むだけで、決して心的ストレスが改善している訳ではなかったりします。その上、収入への不安なども襲いかかってきますから、どんどんネガティブな自分が出来上がってしまいます。
これを上手く脱却できたのは何故でしょう。一つは「夢」…寝ている時の夢ではなく、自分の夢と言うものを思い浮かべるようになってきたこと、そしてもう一つは和尚さんや神主さんに「私、うつでして」と自己紹介がわりに伝えるようになったことかもしれません。うつと診断された当初、「うつになるほど、俺は弱かったのか?」と思っていたのですが、徐々に「あの状況が続いてうつにならないほど厚顔無恥ではなかったのよね」と考えが変わってきました。また、妻が「あたしが悪かったのかな?」と言われたことも大きかったように思います。妻には一切の責任はないんですが、そう思ってしまうのも無理からぬことなのかもしれません。そこで、少しズルいのかもしれませんが「会社が悪い」と思うように変換しました。一般に言う責任転嫁ですね(笑)。別にそれで労災や訴訟にしようなんて言う事は全く考えず「あの環境でうつにならない方がおかしい」と思うようにしたのです。そうなると、妻が責任を感じる必要もありませんし、自分で自分を追い込む必要もありません。
煩悩が戻ってくるまでには、まだまだ時間が掛かりましたが、少なくとも自己否定の言葉で心を傷つける事が減ってくることには、この事で成功したように思います。
「自己否定」をやめよう
自分に対して辛口とは考えなくても、どうしても「前なら出来たのに」と思うことがままなりません。そして妻を含めて心配ばかり掛ける事に対して罪の意識を感じます。将来への不安も募ってきます。そうなると「うつになった自分が悪いんだ」と自己否定が始まります。自殺を考えていなかった人でも死にたい気分に襲われるかも知れません。
私は「自己否定」自体が最大の敵だったんだなと思っています。うつを発症する前から、パワハラ的な扱いを受けたり、自信を失っていったりしていく中で「自己肯定」ができなくなっていたのでしょう。その上に「精神病です」と言われるのですから、そりゃぁ自信喪失から自己否定に陥るのは自然な流れだと思います。
ただ自分が自分を信じられなければ、結局は落ち込む方向に走るばかりです。自己肯定と言うとなんだか「自分は正しいんだ」と主張するようで気持ち悪く感じるかもしれませんね。しかし、ここで言う自己肯定は「尊大になれ」と言う意味ではありません。自分で自分を信用するという事です。散歩ができれば、自分を褒める。よく眠れたら、自分を褒める。役所での手続きが終わったら、自分を褒める。それで良いんだと思います。
それが当たり前にできるようになると回復期へ近づいてきます。そうしたら、自分の進路を改めて考えてみても良いのでは無いでしょうか?会社が好きだから、今の仕事が好きだから復職したい。自分がやりたいことを自由にやってみたい。自分の好きなことを探してみようでも良いでしょう。つまりは「目標」「意志」をもってうつと共存する、あるいは寛解に向けて進んでいく事が重要なんだと思います。殊に私のように仕事・職場環境が原因になっていた場合、「職場復帰」は正直、「それで良いんだろうか?」と言う思いと「生活が掛かってるしな」と言う両面でせめぎ合いがありました。そして自分で考えて結論を出しています。結論の出し方は人それぞれですが、ただ流れに任せていると、中々、減薬も出来ず、自分で考える気力も戻らなかったのではないかな?などと今では思っています。
急進期は本当に辛い。自分の人生や常識、嗜好も思考も大逆転するような世界に陥ります。それだけに自分を責めず、自分の心を大切に見直してみてください。