ブラック企業化〜ナレッジマネージメントへの勘違い
うっちーは、かつて「ナレッジマネージメント」の為のソフトウェア会社に勤めていました。その時、米国人のコンサルタントから色々と教えてもらえたのはラッキーでした。
ただ、その後「ナレッジねぇ、うち一杯あるよ」と言う会社に勤めたりして「あれ?この人たちのいうナレッジ、ナレッジマネージメントって、かなり違う」と思うようになり、かつ、ナレッジマネージメントが目指している方向性と、それを勘違いしている会社の実態=ブラック企業化を目の当たりにしてきたので、ちょっと今回は、そこを書いてみたいと思います。
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まずはナレッジマネージメントについて
ナレッジ、日本語にすれば「知識」です。例えばXのTLを見ていて「なるほどねぇ。勉強になるねぇ」と言うような事が、これです。
一方で類似品が「情報」です。例えば「明日○○でイベントがあります」なんて言うのは典型的な情報ですね。
この2つの相違は、知識は成長するし変化もするんですが、情報は基本的に変化しません。発すれば、それで完了です。
そして、この知識を経営に活かそう!と言うのがナレッジマネージメントです。これを提唱したのが日本人の野中郁次郎さんと言う大学教授です。この方が中心になって書かれた「The Knowledge-Creating Company(知識想像企業)」という著作がベースになって広まった経営論でした。この本の中で紹介されている知識には「暗黙知」と「形式知」があるとされています。
暗黙知は、簡単に言えば「ある人の頭の中にあって言語化されていない知識」です。よく「習うより慣れろだ」だとか「慣れたら簡単だった」とか言う状態が暗黙知ですね。
これに対して「形式知」は、例えばこのBlogもそうだと良いのですが…、自分の経験などを文書や声にして他人に伝えられる状態です。「iPhoneの裏技」なんて配信や本なんて、これですね。
そして、これを経営に活かすと「ベテランの経験を新人に移植しやすい」と言えるんですね。
そうすると
・ベテラン並みの業務効率が多くのスタッフで実現できる
・ベテランは新人からのフィードバックを受けて更に業や形式知を高めることができる
・ベテランに押し付けられていた難解な業務を若手などに振り分けられる
・高められた形式知によって新人でもわかりやすいマニュアルなどが出来上がって
教育コストが引き下げられる
・ベテランのやり甲斐を高め、また新人の離職率を下げることができる
などなど「経営者にも従業員にも優しい職場を作る一つの手法」として知識想像企業は特にアメリカでベストセラーになりました。
ナレッジマネージメントに対する完全な勘違い
IT屋さんが「マネージメント」と聞くと必ず「管理」と訳します。だから「ナレッジマネージメント=知識管理」になっちゃうんですね。これがまず最初の勘違いです。「マネージメント=経営」なんてIT屋さんには「俺の仕事じゃなくてコンサルがやるんでしょ」となります。
そんな人達が「ナレッジマネージメントができる製品です」なんて言うと、完全に文書を管理する製品になりますね。例えばGOOGLE検索なんて、こんな感じです。
ところが、先程書いた「フィードバック」というのを全く考えていません。だから知識想像企業を読んだ人には「あれ?なんか違う」っていう事が起きます。フィードバックができる仕組みがないといけないんです。
次が「特殊な業務(例えばコンタクトセンター)に適用しときゃ良いんでしょ。だってマニュアル第一だもんね」となるんですが、これも勘違いです。経営論を単一部署に押し留めていては、完全に失敗するのは見る必要もなく判ります。
そして「知識=情報」だと思っている人が多いのです。「貴社のナレッジを見せてください」と言うと、マニュアルなどに混じって告知や注意喚起などの文書が混じり込んでいます。この2つ、先程書いた「情報」です。区別が付かないんですね。で、その事を言うと「じゃ、選別してよ」となります。これで自律的に「ナレッジマネージメントを行う」なんて出来ると思います?😁
本来は日本企業の強みだった「ナレッジ」
先程書いたようにナレッジマネージメントなる経営論は日本人が打ち立てたものです。そのモデルになっているのがトヨタなど日本の「製造業」が主でした。これ、実は良いモデルで必ず、
開発・製造:製品を作る→営業が売ろうと努力する→お客様が受取る
←フィードバックを送る ←苦情やクレーム。あるいはお礼が来る
と言うサイクルが出来るんですね。良くサポートサイトに問い合わせをするとSMSなんかでアンケートが送られてきますけど、これもナレッジマネージメントの残滓です(あんまり役に立たない)。
逆に製造業は、このサイクルが本来的にあって、もし不良品が出ればリコールや回収なんて騒ぎになりますよね(書いている現在も大変な事が高島屋さんとダイハツさんで起きてますが)。そうなる前に早め早めに対応することはリスク管理の面でも正しい対策ですし、ブランドイメージだけではなく、企業が受けるダメージも最小化することが出来ます。
ところが、このサイクルを壊してしまうと「隠蔽体質」と呼ばれて、企業のダメージは計り知れません。つまり「お客様が満足する製品」を送り届ける事が製造業には重要ですし、いやサービス業だってそうですね、ただ「品質が低くても安ければ良いや」なんて売り方をしているとリピーターが付きにくいと言う悪循環が始まります。そして、このサイクルが「ジャパンクオリティ」を支えてきたわけです。
ナレッジマネージメントをサービス業に適用すると
先程書いたように、ナレッジマネージメントが企業経営に活かされると、それまではベテラン、とどのつまりマネージャーや経営層が判断しなければならなかったことが若手でも理解できるようになってきます。
アメリカのあるLCCでは、ナレッジマネージメントを積極的に取り入れて、例えばクレームを言ってきたお客様に地上職員が積極的にクーポンやノベルティを配布するようにしました。つまり権限委譲です。それまでは上司にお伺いを立て、その上司で判断が付かないと経営層に上げる。なーんて長い時間の掛かるクレーム対処を現場で「すみません。ただ、ありがたいご意見を賜ったお礼に、グッズを差し上げます」なんてやっちゃう訳です。日本人は余りクレームを言う人種ではないのですし、クレームを言うと「クレーマー」として簡単にマークしてしまいます(コールセンターでリストが作られてたりするんです💦)。ところが、クレームの中にはマーケティングや開発部門には「珠玉のヒント」が隠れていたりします。
「買ったけどさ、これ使いづらいよ」(客)
「どこらへんに使いづらさが?」(メーカー)
「ボタンの位置が低すぎて一々、しゃがむの面倒だと思わない?」(客)
さぁ、ここでナレッジマネージメントのできる会社(良)とそうでない会社(呆)の分かれ道です。
「承知いたしました。ただ現行製品ではボタンの位置は変更出来ません。開発部門には適切にフィードバックさせて頂いた上で、お客様には弊社の割引クーポンをお送り致します」(良)
「承知いたしました。ただ現行製品ではボタンの位置は変更出来ません。申し訳有りません」(呆)。
この受け答えだと良に対していたお客様は、それほど噛みつく事はないでしょう(弁償しろ!とか、返品だー!と騒ぐなら法に照らして対処することになります)。が、呆だとお客様にはツッコミどころ満載に見えちゃうわけです「お前のところは、これを上申しないの?」「え、製品の改良とか考えないわけ?」「こっちはわざわざ電話してんのに、何、その対応」とかですよ。
つまり良対応の実例が会社の中で周知されれば「あそこの会社は対応がしっかりしている」になるし、呆対応の会社はいつまで経っても「あの会社って木で鼻をくくるような対応しかしないんだよ。もう買わねぇよ」となります。これじゃ、経営として失格ですよね。
ナレッジマネージメントは「権限委譲」できる勇気がなきゃ無理
私のように長いことサラリーマンをやっていると「あ、この会社、ナレッジマネージメント無理だわ」と思うタイミングが早めにやってきます。例えば「紙処理減らしてPDFで回覧すれば、オンライン決済できますよね。あ、でもうちは紙が多いから無理か」なんて無駄話を上司に振って「そうなのよー」で終わったら「呆」モードです😁。逆に(出会ったことはほぼ無いですが)「それ、行けるな。うん、今度の役員会で言ってみるわ」なら「良」の可能性ありです。
また、若手が何か失敗した時、「余計なことやりやがって」なら「呆」確定です。「良」なら「報告、ありがとう。やっちまった事は仕方ない。ただ、なんで失敗したか説明できるか?」から始まります。ここで若手の薄い知識にベテランの厚い知識が被さります。そうすると同じような失敗を繰り返すことはなくなります。
呆が良のマネをすると
さて、ここで思い出したことが呆会社にいた時に若手営業に「営業マニュアルを作れ」と言う指示が役員から出ました。若手は若手なりに一生懸命作ってお褒めの言葉を貰います。で、どうなったと思いますか?
そのマニュアルは、そのままです。時々は更に若い人たちが手直しはするんでしょうが…どうなんでしょ?つまり「サイクル」は全く考えられていないって事です。本来なら、営業マニュアルなので
・バックオフィス系での内規が変更されたら、直ぐに通知される仕組み(窓口)を用意する
・バックオフィスからのレビューを受ける
・現場で即応を求められた課題を「課題集」としてベテランも含めて書き込むリストを作る
・エスカレーションが必要な時に一次・二次窓口は用意する
など営業としてのサイクルが最低限、運用に必要なのですが、目的は「マニュアルを作る」なので、そんな事はお構いなし。これでは、ナレッジマネージメントは出来ません。
「呆」がブラックになりやすいか判ってきましたよね
呆企業の場合、現場に権限委譲が出来ません。失敗したら個人の責任になります。そうなれば、失敗が怖くて無難な事をやるしかありません。失敗を犯した上司は、部下の勝手な行為だと強く叱責します。これで、ブラック企業の出来上がりです。
ね。権限委譲やサイクルがあれば解決できたはずの事が、そういう考えがないからできないんです。
「その為にはその為の規程が必要だ!」と言う人は呆企業に沢山いると思います。でもね、先程書いたLCCは寧ろ規程を減らしているんです。現場で考え対応し、成功しても失敗しても共有する。その中から成功例を周知して実行の参考にしてもらえば良いだけです。簡単でしょ。
ところが呆企業は教条主義なので「規程にないことはできない」となる訳です。これ、経営課題の解決を遅らせる最大の理由なんですよ。
ダイハツさんが「現場と経営に乖離があった」と説明していましたが、こういうサイクルが基本になっていれば、現場の苦しみや対応の苦労、あるいは喜びも含めて現場と経営が共有出来るはずですし、その為の経営なんじゃないのかなぁ?なんて思ったりします。
今日も最後までお読み頂きありがとうございます。
下の会社、呆を反面教師に頑張ってます😁
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